
これまで、乳がん後の再建術と言えば、
シリコンバッグ(インプラント)の挿入か、
自家組織(ご自分のお腹や背中の組織)の移植かのいずれかでした。
これらに加わる第3の方法として、今、脂肪注入という方法が注目されています。
現在、当院が力を入れて取り組んでいるこの“脂肪注入”による再建術について、
詳しく解説します。
脂肪注入による乳房再建は何を実現する?
脂肪注入による乳房再建術では、従来の手術(シリコンバッグの挿入/自家組織の移植)で
叶えられなかったいくつかの理想を実現できるようになりました。
特にシリコンバッグで再建した場合、胸の手触りが硬く体温も感じられません。また、横になった時など、バストが自然に形を変えることもありません。触れたり動いたりした時にどうしても不自然さが感じられます。
自家組織で再建した胸は温もりを感じられ、シリコンに比べるといくらか自然ではありますが、もともと別の部位の組織を移植しているので、多少の手触りの違和感は否めません。
その点、脂肪注入で再建した胸は、本来の胸の感触や動きに最も近い、自然な仕上がりが得られます。
これはシリコンバッグで再建したときに言えることですが、一定期間でバッグの入れ替え手術が必要になります。だいたい10年前後が目安です。古くなったバッグは皮下の線維成分が付着して表面が硬くなったり、破損して中身が漏れ出たりといった不具合を生じます。
脂肪注入ですと、一度胸に定着した脂肪はご自分の組織の一部として機能するので、こうした面倒なメンテナンスは不要です。
自家組織を移植する際、移植元の組織周辺には大きな傷が残ります。
脂肪注入では、脂肪を採取する際と脂肪を注入する際、それぞれ数ミリの傷が2〜4箇所つく程度です。しかも、傷跡は脇の下や足の付け根など、体のシワに紛れる場所がほとんどなので目立ちません。
脂肪注入による乳房再建の成果(症例)
脂肪注入は、乳腺の全摘後、部分切除後のいずれの場合にも実施できます。
また、他の方法で再建した後の微調整を目的に行うこともあります。実際の症例をご覧ください。
乳がん全摘後の再建
左側乳腺の全摘後の患者さんです。乳腺外科の先生は正常な組織をできるだけ残してくださいましたが、それでもかなり段差が目立ちます。また、初診の段階では乳がんの手術箇所は大胸筋に癒着していて、皮膚の伸びも良くありませんでした。そこでまずエキスパンダーを挿入して脂肪の注入スペースを確保してから、脂肪注入を何度か繰り返して徐々に大きくしていきました。
施術名 | 脂肪注入による乳房再建 |
---|---|
治療の概要 | 太もも、腹部などから皮下脂肪を採取し、老化細胞や血液等の不純物を遠心濾過で除去。これをバストの皮下に注入する。 |
施術期間 | 乳がん術後の症状によって異なります。 |
施術費用 | ¥700,000〜(税込¥770,000〜)(会員価格) |
副作用・リスク | 施術後には一定期間、痛み、浮腫み、内出血、こわばり等の症状が見られることがあります。また、この他にも予期しない症状が現れる可能性がありますので、術後異常を感じた際には速やかにご相談ください。 |
乳がんの部分切除後の再建
こちらは右胸の乳腺組織を部分切除された患者さんです。手術の影響で脇の下と胸の境目が少しえぐれたようになっているのがお分かりいただけると思います。その「えぐれ」と、ご本人が気にしてらっしゃったデコルテの骨っぽさを解消する目的で、2度脂肪注入を行なっています。
- 1回目の手術前後
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乳がんの手術部位とデコルテに脂肪を注入
- 2回目の手術前後
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施術名 | 脂肪注入による乳房再建 |
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治療の概要 | 太もも、腹部などから皮下脂肪を採取し、老化細胞や血液等の不純物を遠心濾過で除去。これをバストの皮下に注入する。 |
施術期間 | 乳がん術後の症状によって異なります。 |
施術費用 | ¥700,000〜(税込¥770,000〜)(会員価格) |
副作用・リスク | 施術後には一定期間、痛み、浮腫み、内出血、こわばり等の症状が見られることがあります。また、この他にも予期しない症状が現れる可能性がありますので、術後異常を感じた際には速やかにご相談ください。 |
放射線療法後の硬い組織は「幹細胞」で肥沃化
この方の皮膚の状態を確認すると、術後に放射線療法を受けた影響で若干硬くなっていました。こうした場所は脂肪が定着しにくくなっているので、幹細胞濃度の高い脂肪を(できれば複数回)注入し、脂肪が定着しやすい環境を整えていきます。
※幹細胞濃度の高い脂肪を作成するにあたって、当院ではマイクロCRFやセルチャー(培養幹細胞)の技術を活用しています。

シリコンバッグによる再建後の調整
こちらは左側乳腺の全摘手術を受けた後シリコンバッグで再建した方です。術後わずか1年ですが、表面の凸凹が気になるとのご相談でした。エコー画像を見ると、皮膚からシリコンバッグまでが非常に薄くなっていることがわかります。乳がんの手術によって、本来あるはずの乳腺や皮下組織が取り除かれているためです。表面の凸凹は、こうしたことが影響していると考えられます(皮膚までの距離が短いので、シリコンバッグの形がはっきり見て取れる)。
このような場合の調整にも、脂肪注入は有効です。皮膚とバッグ間の薄い層と、大胸筋の中に脂肪を注入していきます。脂肪の厚みが出たことで、胸のラインが綺麗なカーブになりました。
施術名 | 脂肪注入による乳房再建 |
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治療の概要 | 太もも、腹部などから皮下脂肪を採取し、老化細胞や血液等の不純物を遠心濾過で除去。これをバストの皮下に注入する。 |
施術期間 | 乳がん術後の症状によって異なります。 |
施術費用 | ¥700,000〜(税込¥770,000〜)(会員価格) |
副作用・リスク | 施術後には一定期間、痛み、浮腫み、内出血、こわばり等の症状が見られることがあります。また、この他にも予期しない症状が現れる可能性がありますので、術後異常を感じた際には速やかにご相談ください。 |
効果の決め手「脂肪の定着率」を上げるには?
脂肪注入で大切なことは、注入した脂肪をいかに定着させるかです。定着しなければ、再建手術も無駄になってしまいます。
しかし、その方法論はすでに確立していて、技術さえあれば失敗には至りません。当院では、これに則った脂肪注入を行なっています。
注入スペースを確保
脂肪が定着するためには、ある程度のスペースが必要です。狭いスペースに詰め込まれた「すし詰め状態」の脂肪には酸素の供給がうまくいかず、生き残ることができません[1]。ところが乳がんの手術後の患者さんは、乳房組織の多くの部分を除去しているのでスペースそのものが(ほぼ)無い状態です。
ではどうすれば良いでしょう?
基本はまずエキスパンダー(風船状の仮の乳房)を挿入して、数ヵ月かけて徐々に皮膚を伸ばすことでスペースを確保します。ここまではシリコンバッグで再建するときも同じなのですが、当院では、プラスαとして「ビブラ」という乳房拡張器を併用することがあります。これは本来豊胸目的に開発されたものです。プラスチックやシリコンでできたドーム型の機器で、術後の乳房にかぶせるように装着します。弱い陰圧をかけて人為的にむくみを発生させ、脂肪が生き残るために必要な毛細血管の新生を促進します。
- 注入量と定着率の関係
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注入許容量のピークを超えると定着率は激減する。
幹細胞が豊富な脂肪を使用
脂肪の定着には、幹細胞が重要な役割を果たします。
幹細胞は様々な細胞に変化できる特殊な細胞です。脂肪細胞に比較的多く含まれるのですが、これを濃縮したり、あるいは幹細胞だけを抽出して培養するなどして脂肪と一緒に注入します。すると、幹細胞の一部は脂肪細胞に変化してボリュームアップに寄与し、別の一部は血管に変化して、酸素と栄養を脂肪に届ける役割を担います。つまり幹細胞の濃度が上がることで、ボリュームアップだけでなく脂肪が生き残りやすい環境も作れるということです。
また、幹細胞は脂肪が定着するための土壌づくりにも一役買っています。幹細胞が血液細胞や肌細胞に分化することで、血流やコラーゲンの産生、さらには組織の再生が促進します。放射線療法後、硬くなってしまった皮下組織を元の状態に近づけることができるのは、こうした働きが寄与しています。
- 幹細胞が脂肪の生着に
寄与するメカニズム -
脂肪幹細胞の一部は、脂肪に酸素と栄養を届ける血管となり、脂肪の生着を後押しする
脂肪は細かく分散注入
脂肪は塊で入れず、分散させながら注入します。具体的には次の3点を遵守することが大切です。
- 乳腺の中に注入しないこと
- 0.2cc以内の小さな塊で脂肪を注入すること
- 主に乳房の脂肪層に注入すること
これは米国のSydney R. Coleman が提唱したコールマンテクニック[2]と呼ばれる技術で、脂肪注入を専門とする医師の間では常識となっています。
脂肪を塊で注入すれば手っ取り早くボリュームアップできますが、そうした脂肪には十分な酸素と栄養が届かないので、まず定着しません。脂肪注入による乳房再建がほとんどの場合1回の手術で完結しないのは、こうしたことが関係しているのです。
- コールマンテクニックの
ポイント -

FAQ〜脂肪注入による再建術の注意点〜
脂肪注入にはメリットがたくさんありますが、できないことや限界もあります。
ご検討いただくにあたって知っておいていただきたいことをまとめました。
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脂肪注入による再建はどこで受けられる??
脂肪吸引や脂肪注入の技術を習得していて、かつ乳がんの治療内容にもある程度知識のある医師でなければ対応は難しいと考えます。現状、乳がん後の再建を受け入れている形成外科でも、脂肪注入を扱えるところはごく一部です。この他、豊胸を専門とする一部の美容外科でも対応しています。
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治療をお願いするにあたって何が必要?
現在かかっている主治医(形成外科・乳腺外科)の先生の許可が必要です。
乳房再建の治療方針を決める上で、過去の治療経過は非常に重要な情報となります。そのため、乳がん治療や再建手術を行なった主治医の先生方とは緊密な連携を取らせていただいています。受診の際は紹介状、または診療情報提供書をご用意ください(特に通院治療等されていない場合は不要です)。
なお参考までに、過去には以下の医療機関から患者さんをご紹介いただいた実績があります。 -
再建が完了するのにどれくらい時間がかかる?
1回の手術時間は2〜3時間程度ですが、脂肪は少しずつしか入れられませんので2回以上は手術を受けていただくことが多いです。目安としては3回程度の注入を行うことが多いですが、健側の胸の大きさによってはさらに注入を要することもあります。
また、手術と手術の間隔も3ヵ月程度取っています。これは、入れた脂肪が定着するのを待つためです。シリコンなどの再建術と比べて、少し気長に考えていただく必要はあります。 -
放射線治療を受けていても問題ない?
放射線治療を受けた方の場合、手術の難易度は上がりますが不可能ではありません。放射線治療後の硬くなった組織を、柔らかく脂肪の定着に適した状態に変えるには豊富な幹細胞が必要になります。当院ではこの幹細胞を培養して増やすことも可能です。
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保険で治療することは可能?
残念ながら、脂肪注入による乳房再建には、現時点(2020年8月)で保険の適応は認められていません。
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費用負担はどのぐらい?
治療の価格は下記の表をご確認ください。ご状態を拝見して、最適なプランをご提案させていただきます。
下記の手術は、いずれも公的医療保険等が適応されない「自由診療」となります。
会員価格
(税込価格)ローン価格(税込価格) - 施術金額に含まれるもの(下記は別途ご請求いたしません)
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- ●4Dデザインマーキング:術後の失敗を防ぐデザイン共有サービス
- ¥55,000
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- ●脂肪吸引2部位:お好きな部位を2箇所お選び頂けます
- ¥616,000
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- ●エコー検査 術前後2回:より確かな処置の為に、高性能カラーエコーを用いた乳房検査
- ¥33,000
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CRF注入(1回) ¥700,000〜(税込¥770,000〜)
3回2,100,000〜(税込¥2,310,000〜)¥5,500/回~ CRF注入+培養幹細胞添加(初回) ¥1,260,000(税込¥1,386,000) CRF注入+培養幹細胞添加+ビブラ ¥1,460,000(税込¥1,606,000) CRF注入+培養幹細胞添加+インプラント除去 ¥1,460,000(税込¥1,606,000) CRF注入+培養幹細胞添加+エキスパンダー取り出し ¥1,460,000(税込¥1,606,000) CRF注入+培養幹細胞添加(2回目以降) ¥900,000(税込¥990,000) - 脂肪採取料金が含まれております(メニューによって吸引範囲が異なります)
オプション上記施術の費用プラス
肥沃化を目的とした培養幹細胞注入 会員価格
(税込価格)ローン価格(税込価格) 初期費用(脂肪採取・加工・1年間の保管) ¥480,000(税込¥528,000) ¥5,500/回~ 培養幹細胞注入 ¥300,000(税込¥330,000) 培養幹細胞追加(1回あたり) ¥70,000(税込¥77,000) -
乳房再建はがんの再発に影響しない?
一部のシリコンバッグが自主回収されるという事態を受けてのご質問かと思いますが、理論上、乳房再建を脂肪で行うことが再発リスクの上昇につながることは考えられませんし、実際、脂肪注入による乳房再建が再発リスク(乳がんに限らず)に影響したという報告はありません[3]。
乳房再建を美容外科で受ける意義
女性のバストをいかに美しく形成するかという技術は、美容外科の「豊胸」というジャンルで磨かれてきました。このため、乳がん後の再建技術は、美容外科の技術を踏襲して発展したものが少なくありません。脂肪注入などはその最たるもので、脂肪豊胸を専門とする私たちが培ってきたノウハウが、ふんだんに活かされています。こうした背景をご理解いただけば、豊胸専門の美容外科も、再建の依頼先として有力な選択肢の一つになりえるのではないでしょうか。
セカンドオピニオンのご相談もお受けしますので、お気軽にお問い合わせください。
出 典
- 1.Degeneration, regeneration, and cicatrization after fat grafting: dynamic total tissue remodeling during the first 3 months.(PRS, 2014)
- 2.Structural fat grafting: more than a permanent filler.(PRS, 2006)
- 3.Lipofilling of the Breast Does Not Increase the Risk of Recurrence of Breast Cancer: A Matched Controlled Study (PRS, 2016)

名古屋院院長帯包雄次郎医師
経歴
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- 1978年
- 香川県生まれ
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- 2002年
- 東京科学大学(旧・東京医科歯科大学) 卒業
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- 2002年
- 東京科学大学病院 脳神経外科 入職
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- 2006年
- 亀田総合病院 脳神経外科 入職
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- 2012年
- ピッツバーグ大学 脳神経外科 研究員 入職
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- 2013年
- 亀田総合病院 脳神経外科 入職
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- 2017年
- 葛西昌医会病院 脳神経外科 入職
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- 2019年
- 共立美容外科 入職
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- 2020年
- 共立美容外科 池袋院院長 就任
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- 2022年
- THE CLINIC 入職
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- 2025年
- THE CLINIC 名古屋院 院長 就任
資格
- 医師免許
- コンデンスリッチファット(CRF)療法認定医
- VASER Lipo認定医
- TOTAL DEFINER by Alfredo Hoyos 認定医
所属学会